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深海魚は地上を目指す

システマ ロシア旅行

空気を読め、と言う言葉がある。「KY」と略されて流行語にもなった。
私は、空気の読み方がわからない。
空気というものが読めなくて、子供の頃から上手に人の輪に馴染む事ができなかった。
そのうち、周囲と同じ行動をすればなんとかなるという処世術を身につけたけど、気を抜くとあっという間に、まわりから取り残される。
合図したわけでもなく、リハーサルがあったわけでもないのに、人が一様に同じ行動や感情を共有する。それが不思議でたまらない。
自分だけ違う生物なんじゃないかと思ってしまう事がある。
私は光の届かない海の底にいる深海魚で、他の人たちは空の下で地上に足をつけ、鼻と口で呼吸する生き物。
私は今、地上の生き物になろうとして、水面に浮上している最中なのだろうか。だから、こんなに息苦しいのか。
深海魚は地上に上がると、気圧の関係で、破裂して死んでしまうと聞いた事がある。なんだか北斗の拳に出てくる秘孔を突かれたモヒカンみたいだ。
いきなり海の底から、地上を目指す事はできない。暗い場所からゆっくりとゆっくりと、浮上していくしかない。
ちなみに、北斗の拳で有名な断末魔「ひでぶ!」。これは元は「ひでえ!」だったのが写植の際に、誤読されて「ひでぶ!」になってしまったそうな。名作には不思議と、そういう偶然のエピソードがある。

ステマの創始者ミカエルが現時点(2016年11月)でご存命というのは、前回書いたと思う。
作った人が生きているという事は、システマは現在進行形で内容がアップデートするのである。
ある日突然、「今までのなんだったの?」ということがおこるのだけど、まあ、それが創始者と同じ時代に生きている醍醐味といっていい。
今年、モスクワのセミナーでミカエルが新しい呼吸法を発表した。*1
ステマはとにかく、呼吸を重要視する。
武術によっては、丹田呼吸とか色々あるけど、ここまで細かく呼吸を組み合わせる稽古があるのはシステマくらいなんじゃないかと思う。(よく知らないので推測)
ステマには細かい呼吸のワークがある、といっても、今まで呼吸そのものは「鼻から吸って、口から吐く。」の呼吸であれば、なんでもOK!というノリだった。
しかし、新しい呼吸法は、今まで習ってきた呼吸とはアプローチが違った。間逆とも言っていい。
その呼吸について、ちょっとだけ解説。
今までは「呼吸から動きをつくる」*2というものだったけど、新しい呼吸は「動きから呼吸を作る」というものだ。
詳しいことは、ネットで検索して欲しい。多分、システマのインストラクターの人が、いろいろとその呼吸法について述べていると思う。まだ呼吸法の名前が統一されていなくて混乱するかもしれないけれど、システマに関するブログなどで今年の8月以降に出てくる「新しい呼吸」はこの呼吸法と思っていい。
呼吸というシステマの土台そのもののアップデートは、システマを習っている人達の間で、かなりざわめきたっていたように感じた。
その中で、私が習っている先生は(理工系の南方アジア人留学生僧籍保有っぽい人.。←長いので略称作った方がいいですね。)「呼吸から動きを作れるのなら、逆に動きから呼吸をつくったって、理屈的には別におかしくないし。」と飄々としていた。
スーパーの出入り口につながれてる飼い主を待つ犬だって、目の前で今、新しいことがあったら少しは反応するというのに。
あいかわらずだなあ、と思った。
私はシステマを習って、2年以上が過ぎていた。
あれからも、私に上達の兆しはなかった。
その間、システマで点々と期間をおいて習う人でも、上達する人をたくさんみた。短期間でも、身体はもちろん、精神にも効果があったという報告も多く聞いた。
ほとんどの人がシステマで何かしらの効果を得ていた。
その中で、これだけ通って、まったく上達しない私は、異常といえた。
何をしても、どんなことを試しても、私の体は鈍く、閉ざされたままだった。
「あと、少しだけ、あがいてみよう。」と伸ばし伸ばしで2年。
ステマに通うことはもはや生活の一部になっていて、毎週、稽古場に吸い寄せられていた。
いっこうに水面は見えてこない。もしかすると、ようやく地上にたどり着いたとしても、地上の生き物は進化して、すでに宇宙のどこかの星に移住してるかもしれない。
あせって、イラついたり、不貞腐れたり、管を巻いたりもした。もっとも良くないダメダメな傾向だ。
先生も、一緒に習っている人も、よくぞまあ私に根気よくかまってくれたと思う。
私だったら「魚はエラ呼吸してな!」と有無を言わさず深海に送り返す。コンクリートを添えて。
そんな私に、ちょっぴりとだが「それ」を知る時がやってきた。
前述した新しい呼吸法。その新しい呼吸をしやすい体になるための、下地を作るワークをしている時だった。
はたからみたら、おおよそ武術の稽古とは思えないエクササイズだった。*3
それは、ほんのちょっとした、動きのさなか「あ。今、肺が開いた。」と感じた。「!」「?」ではなく「。」
驚きや疑問もなく、確かな「感覚」だった。
肺が開いた、というと胸骨を中心の観音開きに開いたようなイメージがあると思うけれど、そうではなく背骨に沿った肺の終わり(肋骨の一番下に近い)の左右の小さな部分が「開いた」。
その瞬間から、呼吸が楽になった。クリアになったという方が的確かもしれない。
目の前から遮蔽物が一瞬で消え去って、視界が地平線まで広がったような、不思議な感覚だった。
おそろしく鈍い自分が初めて感じたシステマでの変化だった。
「覚醒」したわけじゃない。「凪」という状態で、常に感情はフラットな位置にある。

でも、この感覚はずっと続く事はなく、時間とともに消えてしまうと思った。
「モスクワに行こう。」
何の脈絡もなく、そう決めた。

 

 

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なんでもフォーム

*1:前からあったようですが、ミカエルは封印していたらしい。

*2:「呼吸に動きをのせる」という意味の方が正しいかもしれない。

*3:ステマでは、「これ武術の稽古なの?」といいたくなる稽古が、よくある。